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3人の子どもがいるのに不倫相手と心中…身勝手すぎる作家・有島武郎の炎上騒動

炎上とスキャンダルの歴史1

 

■マスコミと世間が騒ぎ立て、傷ついたのは子どもだった

 

 秋子も秋子で悲劇のヒロイン気質の女性でした。加齢によって衰えゆく容貌と肺病に冒された自分、そして不幸な結婚生活を嘆き、酔うような人でしたし、この当時の有島も創作活動に行き詰まり、「貧しい人が世間にたくさんいる以上、自分だけ裕福なのは罪だ」などと思い込み、財産放棄を試みる程度には情緒不安定でしたから、彼らは訴えられて炎上するくらいなら、もはや「死んだほうがよい」と結論してしまったのです。

 

 二人の遺体が発見されたのは、亡くなってからほぼ1ヶ月後の7月7日です。夏季ということもあり、遺体は顔の判別もつかぬほどに腐乱していました。しかし有島は「愛の前に死がかくまで無力なもの」と遺書の中で語り、愛する女性と、あの世で永遠に結ばれることの喜びに溢れながら死に至ったようです。

 

 「人気作家心中死」のニュースは新聞各紙の一面を飾り、マスコミと世間が、3人の子供もいるのに愛人と心中した有島を叩きまくります。有島の子息のひとり・神尾行三は当時、牛松河田(現在の新宿区)にあった成城小学校に通う10歳でしたが、父の情死によって、世論が燃え上がり、見知らぬ人から白い目で見られた当時の異常な空気を忘れることはなかったようです。有島の道ならぬ行為を糾弾しているつもりで、世間の怒りは、彼の家族を深く傷つけてしまったのでした。

 

有島武郎(小説有島武郎より)

 

肖像画像…国立国会図書館「近代日本人の肖像」『小説有島武郎 』鑓田研一 著 新潮社 昭14

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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